大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成8年(行ツ)86号 判決 1996年9月27日

沖縄県沖縄市中央三丁目一三番七号

上告人

山岸正幸

右訴訟代理人弁護士

新垣勉

沖縄県沖縄市字美里一二三五番地

被上告人

沖縄税務署長 糸洲朝永

右指定代理人

渡辺富雄

右当事者間の福岡高等裁判所那覇支部平成六年(行コ)第三号所得税課税処分等取消請求事件について、同裁判所が平成八年一月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人新垣勉の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するか、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成八年(行ツ)第八六号 上告人 山岸正幸)

上告代理人新垣勉の上告理由

一 法令解釈の誤り

1 原判決には、所得税法一五六条についての解釈の誤りが存する。

所得税法一五六条は、税務署長が所得金額自体を推計することを許していると解されるが、推定が適法と認められるためには、採用された推計方法自体に合理性があり、且つ、推計の基礎とした事実の選択が事案にとって適切であり、しかも、同事実が的確に把握されていることが必要である。

推計はできるだけ真実の所得に近い推計所得額を認定するための手法であるから、採用された推計方法自体が単に一応の合理性を有するだけでは足りず、いくつか存する合理性が認められる推計方法の中で、最も合理的推計方法であることが必要である。

従って、前記推計方法自体に合理性があると認められるためには、推計方法自体に一応の合理性が認められるだけでは足りず、他の一応の合理性が認められる推計方法と対比して、より合理性が認められる推計方法であることが必要である。

2 課税庁は、推計方法が一応合理性を有することを主張立証すれば足り、被課税者は、課税庁が採用した推計方法より、さらに合理性を有する推計方法を主張、反証してよりよい推計方法を用いた推計を主張することができると解すべきである。

3 ところが、原判決は、「被課税者は実額を立証することにより右推計を破ることができるが、そのためには、推計の対象が所得金額であることに照し、真実の所得金額、すなわち当該係争年分の総収入金額及び必要経費の双方を主張立証(本証)する必要がある」(原判決、第三、三、5)とし、実額の本証をなしてはじめて推計は破られると判示する。

しかし、推計は、真実の所得を推計して課税しようとするものであるから推計方法自体の合理性の優劣、すなわち採用された一応の合理性を有する推計方法と、被課税者が主張する一応の合理性を有する推計方法、あるいは、当事者双方が主張していないが、証拠上、認定しうる一応の合理性を有する推計方法等を裁判所が比較綱領して、より合理性を有する推計方法を採用して推計を行なうべきものであり、実額主張によらなければ、課税庁が採用した推計方法を破りえないとする原判決の判断は推計の本質を見失ったものであり、誤ったものといわざるを得ない。

二 判決の結果に影響を及ぼす法令解釈の誤り

1 上告人は、一審及び原審を通して被上告人が採用した類似同業者率による売上高推計より、本人資料に基づく売上高の推計方法がより合理性を有することを主張したが、原判決は、この観点からの判断をせず、もっぱら実額本証という視点でのみ上告人の主張立証した事実を判断している。

確かに上告人の資料は、原判決がいう実額立証と認めうる程には完備していないが、上告人本人の売上高を推計する資料としては十分合理性を有するものであり、同資料の中に原判決が指摘する若干の数字の不一致があったとしても、推計の基礎としては十分信用しうる資料である。

2 よって、原判決には、判決の結果に影響を及ぼす法令解釈の誤りが存するので、原判決は破棄されるべきである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例